自由研究。
各個々人がそれぞれの想像力と探求心に全力の力を注力して取り掛かる課題。
私個人的にはあまり好きではなかった。
計算ドリルなどの決まった問題、決まった答えがある課題は、夏休み突入早々に取り掛かって終わらすことはできた。
しかし、自由研究はそうもいかなかった。
自分で課題を見つけないといけないからだ。
だから、自由研究に取り掛かるのも8月の半ばから終わりにかけてであった。
そんな苦手な自由研究でも、一回だけクラスメイトたちに脚光を浴びた作品(?)を提出したことがあった。
小学5年生の頃、夏休みに突入して漢字ドリルやさまざまな教科のプリント問題集を7月中に終わらすことができた自分は、友達と遊んだり所属していた少年野球団の練習に明け暮れていた。
もちろん自由研究もあったが、それはとりあえず頭から忘れることにしていた。
とはいっても夏休みの終わりは刻一刻と迫っていた。
いやーどうしよう。ネタが思いつかない。
ポーカーフェイスの自分は全く焦りの表情は見せずにいたが、内心とてもヤバい心情だった。
母も自分が宿題一式終わらせたことは知っていた。もちろん自由研究には手を出してないことも知っていた。
もう8月も終わりに近づいてきたとき、そんな母が自由研究にと、どこからか仕入れてきたネタを渡してくれた。
「これとか自由研究にどう?」
手渡されたのはプリント2枚とペラペラの発泡スチロールのような紙。
そのプリントを読んでみると内容は「ハネのついた植物の種子」についてだった。
ふむふむなるほど、カエデという植物は種をより遠くに飛んでいくようにと翼果(よくか)と呼ばれるハネがついた果実を実らせるという。
そしてペラペラの発泡スチロールのような紙は、これを使ってカエデの種を再現してみようというものか。
説明用の紙があり、それを実演することができるグッズまでついた神のような自由研究セット。
いやしかし、自由研究の品は大抵の場合、教室の後ろにあるロッカーの上に飾られるものだ。
自作した説明用の大きい方眼紙と、ペラペラの実演用ハネつき種を置いたところでインパクトは弱い。
はじめ自分は渋った。これを提出しても評価は低いのでは。
だが、もはや自分には選択する時間などない。
そもそもネタが思いつかない自分にそんなわがままを言う権利などないのだ。
とにかく文具屋で購入した大きい方眼紙に説明用のプリントを大きな字で書きうつす。
そしてハネつきの果実を作る。
たった半日の作業であった。
自由研究の課題探しに焦ったわりには、取り掛かったらすぐに終えてしまった。
9月になり、学校へと登校して課題一式を先生へと渡した。
そして自分の予想通り、自由研究の品は教室の後ろへと置くことになった。
パッと見自分の研究は方眼紙一枚だけに見えるが仕方ない。
これで自由研究はおしまい。
そう思ったのも束の間、なんと自由研究の発表会を行うことになった。
待て聞いてない。今までそんなことしてこなかったぞ。
だが発表会と言っても6つある各班の1人がそれぞれ同時に教室内で発表して、残りの人は自由に聴き回るといったものだった。
せっかく作ったハネつき果実を使わないのももったいない。
仕方なく方眼紙の説明を話してから最後、ハネつき果実を天井まで放り投げてひらひらとプロペラのように回って落ちてゆくデモンストレーションをした。
「おおっ!!」
それが意外とウケた。
「もう一回やって!」
なんとアンコールまでいただいた。
また天井まで投げてゆっくり落ちてゆく果実。
評判を聞きつけてか先生までやってきた。
「おお、すごいね!」
女性の若い先生(自称18才)はそう褒めてくれた。
クラスメイトの意外な高評価に自分はとても驚いた。
そして自分の自由研究アレルギーも、そのハネつき果実のおかげで身体からゆっくりと消えていった。
今週のお題「自由研究」